[book]街道の民家史研究
街道の民家史研究―日光社参史料からみた住居と集落
民家(いわゆる近世民家。民家園なんかに保存されてるような。)の研究には膨大な蓄積があるのだった。近くの普通の図書館で民家をテーマに探したって開架だけでもすぐに何冊も見つかるし、閉架まで探せばとても読みきれないほど。
ただ、一般向けの本だと民家を美化しすぎているような気がする。天邪鬼な私としてはなるべくそうでないものを探したりするわけで。
本書は地味な専門的な論文を集めて1冊の本にしたもの。さすがに専門的すぎて、面白い本というわけではないのだが、素人の特権で読みたいところだけ適当に読む。
この本の副題は「日光社参資料からみた住居と集落」という。
徳川家の将軍が初代将軍の祀られている日光にお参りをするために街道沿いの民家の図面をつくったそうで、その資料を読んで村ごとの民家の規模や平面のありかたをまとめた本である。
まず、無知な素人としては、そんな図面がつくられていたということだけで、へぇボタンを20回ぐらい押してしまうのだが、なにしろ万単位の人間が動く大大行列なのだそうで、その人々の宿泊先を決めるためにつくられたのだそうだ。したがって村のほぼ全戸についての記録が残されている。
本書のウリは、その、村全体を俯瞰できている、ということ。たいていの民家の本は立派で大きいものを対象にしている。(小さいものの記録なんて残っていないのでしかたない面もあるらしいが。)対して本書では貧乏な水呑百姓の家についての記述もある。
たとえば民家の外壁。
外壁には「かべ」、「ハメ」、「クサカキ」の3種類あり、単一だったり併用だったりする。ある村では
「かべ」だけ           3軒
 「かべ」「ハメ」併用       3軒
 「かべ」「ハメ」「クサカキ」併用 3軒
 「かべ」「クサカキ」併用     1軒
 「ハメ」「クサカキ」併用     1軒
 「クサカキ」だけ         1軒
という分布なのだそうだ。この順番は上から順に金持ち。「クサカキ」だけというのは要するに家の外壁も茅萱みたいなものということで、3匹の子豚じゃないけれど台風でもきたら大変なことになるような家。
それらは規模も小さく、宿舎として提供されることはなかったとか。
資料にも「見苦敷家」と書かれているとか。
金持ちほど立派な家に住み、貧乏人は粗末な家に住むというのは今も昔も変わらない。
金持ちが立派な家をたてる様子はなんとなくわかる。近世民家は大工の庶民階層への進出抜きにはありえないことだそうで、豊かになった農民も大工に家を建てさせることができるようになったというわけだ。しかし、貧乏人の粗末な家は誰がどうやって建てたのだろう。そんなこと、どんな本を読んでもわかりそうにないが、なぜか私はそういうことに興味をもってしまう。