あたりまえの家がなぜつくれないのか

isbn:4767805120
家つくりの本は星の数ほどあれど、たいていは読んでみるとゲンナリするような本だったりする。
そういう本は「自分の考えが一番、ほかは全部だめ」と強く主張しすぎている。
この本はその点は控えめで読みやすかった。
もっとも「あたりまえの家」なんていうキャッチフレーズをもってこざるを得ないあたりにじゅうぶんゲンナリ要素はあるのだけれど。
(だって、自分のところがあたりまえなのであって、よその建てる家は異常な家だと言っているわけだから。)

でも、それはしかたないのかなあと最近は思えてきた。

なにしろ、住宅市場というのは普通の市場ではないのだ。買い手も売り手も異様な熱気に浮かされていて、その熱気をいかにつかまえるかという勝負にあけくれている市場なのだから。
控えめな主張なんて熱に浮かされた人の耳には届かないのだ。

家関係の本の読者の大半は(私みたいに)家を実際には建てないのに夢や興味をもっているだけの人なんだろうから、なおさらそういう人の妄想をかきたてるようなものでなければならない。いきおいゲンナリ率は上昇するほかない。

そのゲンナリが嫌だなと思っているが、どうしていいかよくわからない人というのがたぶんすくなからずいる。(比較的若くてスローとかロハスとかいう言葉に反応してしまう主婦というイメージ)
その人たちになんとかアプローチしようとする。それが本書の立ち位置なのかなと思う。
(実はこの本に書いてるようなことは、もうちょっと堅めの建築学よりの住宅本を読めば書いてあることばかりだったりする。しかしスローでロハスな主婦達はそういう書籍の売り場には近づいてくれない。ヒネクレすぎたものの見方かな。成功しているかどうかは微妙なところ。私みたいに図書館で借りてぶつぶつ言っているだけの読者はとりえあず迷惑な存在には違いない。)

本書に登場する人たちはみんな真面目にいい住宅をつくろうとしているのだ。
熱気にうかされずに大事なことをゆっくり考えようと言っている。家はいそいで建てるものじゃない。それはたぶんまちがいない。で、実際、良い提案に満ちているのだろう。
出版元であるエクスナレッジ社といえば良書を多く出版している老舗だし。
が、しかし。
そのような人達すらもいささか滑稽なプレイヤーにならざるを得ないのが現在の住宅をとりまく環境というものなのだ。

ちなみに関連サイトもある。